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    「おい、やつは所長だぜ。まだ新任で、来たばかりなんだ。――行かう!」

    答へながら、彼は紅くなつていた。

    「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」

    房一はその玄関土間に足を踏み入れて、

    房一はすぐと、大石練吉のことを思ひ浮かべた。大事をとるといふ名目で、彼の対診を求めることにしたのである。

    練吉は卒業するとすぐ医専附属の病院に勤務した。今度は正文の指金で、釣合のとれた家から正式に嫁を迎へてやつた。男の子が生れたし、これで落ちつくかと思はれた。が、その三年間にも練吉の女狂ひはやまなかつた。おしまひには遊び人と内縁関係にある、子供まである酒場の女にひつかゝつた。しかも、その女を得たいために、その女と前夫とを別れさすための手切金まで出すといふ始末だつた。その間のごたごたでごく普通のお嬢さん育ちだつた嫁はたまりかねて出て行つた。その後で女とも別れた。出て行つた嫁の実家との交渉が永びいた。すると、その最中に又もや隣家の寡婦と関係ができたのが、先方に知れて、たうとう破談になつた。こんな風に別れる度に、手切金だの慰藉料だのいふ名目で、結局渋しぶりながら正文の手もとから金が出た。

    「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」

    と、練吉は急いで云つた。

    房一が云ひかけると

    徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。

    練吉若夫婦は診察所の二階を居部屋にしていた。そこと正文夫婦の住む母家おもやとの間には一見して判る気風の相違が現れていた。正雄はそこへ近づかないやうに云ひふくめられていた。

    「まだ、まだ」

    「大きいかね」

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