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「うん、今帰るところだ」
「徳さんが新しいのを掛けてくれるまで待つていた方がいいかもしれませんね、これは」
「かう云ふと、君は笑ふかもしれんが、自分の親だの子だのいふ者を診るのはじつに困るんだ。なんだかそはそはしてね」
「わたしやア――」
「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」
「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
「誰?相沢の知吉さんかね」
「よし!」
喜作と別れてから、房一は歩きにくい足もとの円石に目を落して何となく考へこんだ風に歩いて行つた。
と云ったそうだ。
彼は近来今日ほど熱心に注意深く患者を診たことはなかつた。今までは単に顔見知りだといふにすぎなかつた高間道平といふ一介の老人、しなびた、日焼けのした肉体を、たゞそれだけでない、ふしぎと一脈のつながりあるものとして見た。それは又、この紅黒い、むくむくした房一にもつながつているものだつた。そのどこから来たとも知れない、ぐつと身体を近づけたやうな親しさを、今、練吉は隣りを歩いている房一に感じていた。
房一はすぐと、大石練吉のことを思ひ浮かべた。大事をとるといふ名目で、彼の対診を求めることにしたのである。
房一が云ふと、喜作は突然びつくりするほど大きな口を開けて笑つた。