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「消防演習だ?ふむ、よからう。そんなら訊くが、かうしてみんな集つて騒いでいるのは何のためだか知つてるか」
「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」
「あ、さう云へば」
患者の脈を見たり、舌を出させたり、背部を指で押し、打診し、薬を与へたりすること、そんなことは誰にだつて出来る。それからあの、開業医にはぜひとも必要だと云はれている社交的な才能、お世辞を云つたり、砕けた気の置けない態度で抜かりなく会ふ人ごとの心をつかむ――「ふん」と、房一は独言のときに自然と目の前につくり上げるもう一人の自分に向つて冷笑してみせた。
練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。
「なに、訴訟?」
「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」
むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。
と、房一は訊いた。
房一の態度が穏かだつたので、相手はいくらか落ちついた。
「ふむ」
この路をそんな恰好で通るのは近くにある営林区署の役人か発電所の技手ぐらいのものだつた。だが、そのいづれでもないことは、段々近づくにつれて目につくあまり見かけない猪首のやうな肩つきと、自転車のハンドルにしがみついたやうに見えるその円まつちい体躯、それらの印象の与へるひどく不器用な乗り方などによつて、すぐと知ることができた。
「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」